するどくとがった触手の先端が、小さめのスイカにつきささった。 そのまま中身を少し吸ってみると、汁が多くておいしかった。でも種を吸いこんじゃったらいやだから、ちょっとだけにしておこうっと。 ボクは触手をスイカから引き抜いて、ようし、とひとりごとを言った。 練習はばっちり。今日はボクが、はじめて脳をすいとるのに挑戦する日。 生まれてからいままでボクは、虫とか鳥とか、あとヒトが『おやつ』って呼んでるすばしっこいやつとかを食べてきた。でもボクも大きくなって、触手をまきつける力も強くなったし、じまんのとがった触手の先っぽも、とってもかたくてするどくなったんだ。きっとこれなら、だれかの脳をすいとることもできるはず。 いっぱい脳をすいとったら、もっと大きくなれるだけじゃなくて、とっても頭がよくなれる気がするんだ。たのしみだなぁ。 ◆ 草むらに隠れてたボクのすぐ隣に、前にヒトが『えもの』って呼んでた、耳がおおきいやつがやってきて寝ころんだ。ボクはできるだけしずかに触手をのばして、えものに近づけていく。 「ん!? わー! なんだこれ!?」 ボクはすばやく触手を動かし、うとうとしていたえものの両腕ごと、おなかをぐるりとひと巻きにして持ち上げた。『おやつ』よりもずっと重たくて、ちょっとたいへんだけど……こうすれば逃げられないから、らくちん。 あ、でも今回は『おやつ』を食べるのとちがって、脳をすいとるだけなんだった。あばれないようにしないと。 「はなせ、はなせえっ! はな、んむううっ!!」 触手をなんどもまきつけて、ぐるぐる巻き。なんかうるさかったけど、これで静かになった。よーし。集中して。 「ん゛〜〜〜! んむ゛ーーーー!」 耳の穴をねらって……いまだ! ず 「っ゛!!!」 やった! うまくできた。耳がおおきいおかげでねらいやすかったし、一気に頭の奥のほうまでさしこめた。吸ってみよう。どきどきするなぁ。 ぢゅる ずぢゅ…… 「っ゛!!」 お……おいしいっ! 脳ってこんなにおいしいんだ。スイカよりもずっと濃いかんじだけど、とってもまろやか。 くちゅ ちゅる ちゅぶ 「っん゛!!」 おいしい、おいしい……もっとたべたい……あ、なんか触手をつたって、この『えもの』のおもいでがわかる……。 ぢゅるるる ぢゅうう 「……! …………!!」 あぁ、この『えもの』、今までしあわせに生きてきたんだなあ。おいしい草をいっぱいたべて、ひなたぼっこして、群れの仲間とあそんで……。 ぢゅ ぐちゅ ちゅる 「…………」 ボク……おれ、も……このあと……おひるねしよう。おなかいっぱいで……ねむくなってきたし……。 ◆ ん……。 ふああ、とおれはあくびをした。なんでこんなとこでねてたんだっけ。まーいいや。 おなかすいた。あっちの草たべにいこっと。 「わ!?」 走り出そうとして、おれはころびそうになった。なんかおれのからだにへんなひもみたいなのがいっぱいついてる。ぶよぶよしてきもちわるいなあ。しかもなんかよくわからないのにくっついてる。 おれはひもみたいなのをひっこぬいて、おれのからだからもひっこぬこうとしたけど痛かったからあきらめて、手でかかえて走りだした。んー、おもたい。じゃまだなあ。こんなのあったっけ。 走るのも、いつもよりずっとおそいきがする。前はもっとはやかったとおもうんだけど。 ◆ ついたついた。うまそー。 もしゃもしゃと草をちぎってたべる。おいしい。おいし……あれ? なんかおいしくないようなきがする。おいしくないっていうか、あんまりたべたことないような……でもそんなわけないか。さっきもたべてたし。うまうま。 ふー、たべたたべた。ねよー。 ◆ ……がら…… 「んえ」 ……ごろ、ばりがしゃ! 「おわあ!?」 きゅうに空がひかってすごい音がして、おれはとびおきた。 ごろごろごろ! どがん! 「わーーー!!」 やだ、この音やだ! おれのきらいなやつ! あわてて耳をおさえようとしたけど、みみがなかった。 「え!?」 みみがない。っていうか、なんか小さい。 「え、え!? なんで!?」 ばり、ばりばり! 「わああーー!!」 みみがないのも、空がうるさいのも、どっちもこわすぎて、おれは逃げだした。でも、ひもみたいなやつがおもすぎる! なんでこんなのがくっついてるの! ばりごろがしゃ! 「わーーー!!」 近くに森があったから、おれはそこにかけこんでいった。ここなら空がみえないから、ちょっとこわくない。 ◆ 「はあ、はあ……」 走りにくい。はしりにくい。もう走れない。おれは森のなか、でかくてまるい草によりかかった。そしたら急に草がうごきだした! 「わああ!? んぐ!」 でかくて丸い草からのびてきた緑色のにょろにょろがおれの手と足に、それから口にもまきついた。 でかい草のてっぺんが口をあけるみたいに開いて、そっちにはこばれていく。 「んぐーー! ん゛ーーー!!」 たべられる!? なんで、草なのに! 草はおれがたべるのに! ほかのにょろにょろもうねうねうごいて、おれにせまってくる。やだ、やだ!! 「む゛ううーー!」 力いっぱいもがいたけど、まきついた触手はほどけない。草の大きな口がすぐそこまできてる。 「っ゛ーー!」 もうだめだ、と思った。うそ、いやだ、このままおれたべられちゃうなんて……あれ? 「ん゛、……?」 おれさっき、『触手』って思った。触手って……このにょろにょろのこと? 「……」 なんか、おもいだしてきた……。この『触手』は、おれ――いや、ボクも使える。使ったことがある。 ◆ 「……ふう」 ボクは一息ついて、ひゅんと触手をひと振りした。 さっきまであんなにこわかった植物の触手は、ボクの触手よりもずっとやわらかくて、力も弱かった。巻きついていた触手はかんたんにふりほどけたし、そのままボクのとがった触手でずたずたに切りさいてやった。 それにしても、なんでボクはこんな植物なんかにおびえてたんだろう。さっきまでのことがあんまりよく思い出せないけど……なんだか足がつかれてるし、それにちょっとおなかも痛い。へんなものを食べちゃったような気もする。 なにをしていたんだっけ……そうだ、脳を吸おうとしてたんだ。それで、ええっと……なんか、うまくいかなかった。たしか。 さっきまでなんだか考えるのがへたになってたみたいで、まだちょっとぼんやりしてる。ううん、もっともっと、かしこくなりたいなあ。 ボクがそんなことを思っていると、遠くから耳のおおきい『えもの』が一匹、こっちに近づいてくるのが見えた。 ちょうどいい相手だ。そう思ってボクは草むらにかくれて、息をひそめた。ようし、こんどこそちゃんと脳を吸いとるぞ。 おしまい |